水素の製造は古くから行われており、水素の代表的な用途は、石油精製プロセスのユーティリティや、製鉄プロセスの副生物として発生するCOGを所内の燃料として利用することです。また、近年では地球温暖化防止を志向する風潮の中で再生可能エネルギー(太陽光発電などによる電気やバイオガス)を利用した水素製造も行われるようになってきています。
水素の製造方法
水素の製造方法は大きく分類すると4つあります。それぞれの方法について解説します。
化石燃料から触媒を用いて改質する方法
大量の水素を最も安価に製造する方法で、①水蒸気改質反応(Steam Reforming)と ②一酸化炭素シフト反応で構成されています。
製造方法の原理はメタンガス(CH4)を事例に説明すると以下のようになります。
高温の水蒸気(商業ベースでメリットが高いのは1000 ℃程度) と メタンが混合された状態で触媒に接触すると、水蒸気はメタンと反応し、水素と一酸化炭素になります。
一酸化炭素と水蒸気が混合された状態で触媒に接触すると水素と二酸化炭素になります。
メタンガス以外の炭化水素(CnHm)も同様のプロセスで水素を得ることができます。
- 水蒸気改質プロセス CH 4 + H 2O ⟶(ニッケル系触媒)→ CO + 3H 2
- 一酸化炭素シフトプロセス CO + H2O → (酸化鉄系触媒)→ CO2 +H2
この製造プロセスの特徴を整理すると以下の通りです。
- 大量の水素を他の製造方法と比べて最も安価に製造することができる。
- 高温の蒸気と改質炉が必要となる。
- 水素だけでなく二酸化炭素も製造される。
製鉄所や化学工場などからの副生ガスを分離・精製する方法
製鉄プロセスや工業化学プロセスの中で副次的に発生するガス(副生ガスと称されています)があります。 副生ガス中に水素が多く含まれる場合、水素以外のガスを分離・精製することで高純度な水素を得られます。
製鉄プロセスを事例に副生ガスが発生する理由、水素を得るまでの過程を説明します。
石炭は製鉄プロセスに欠かせない原料ですが、石炭には鉄鋼製品の品質や製鉄プロセスに悪影響を及ぼす 硫黄、コールタール、ピッチ、硫酸、アンモニアなどが含まれています。これらの不純物を除去するために石炭を乾留(1,300℃以上での蒸焼)します。乾留されたものはコークス(英語名 Cokes)と称されています。乾留されたコークスは石炭よりも炭素の純度が高いのでより高温での燃焼が可能となり製鉄プロセスに適した燃料となります。
石炭の乾留プロセスにおいて副生ガスとしてコークス炉ガスが発生します。コークス炉ガスはCOG(シーオージー)と称され、正式にはCoke Oven Gasといいます。 COGの組成は、水素(52%程度)、メタン(32%程度)、一酸化炭素(7%程度)、他炭化水素(3%程度)です。
COGは主には製鉄所内の燃料(乾留工程やボイラーなど)として消費されています。水素ガスとして外販する場合には、COG中に含まれる水素を分離・精製(PSA方式)することで水素の純度を高めます。製鉄プロセスでは、高炉や転炉でも水素を含む副生ガスが発生しますが、水素の含有量が数%と少ないので水素を分離・精製することは無く製鉄所内の燃料として消費しています。少ないので水素を分離・精製することは無く製鉄所内の燃料として消費しています。
少ないので水素を分離・精製することは無く製鉄所内の燃料として消費しています。
- 製鉄プロセスの中で副次的に発生するので水素の製造コストは比較的安価である。
- 水素を外販する場合、COGから水素濃度を高めるための設備が別途必要となる。
- COG発生量(≒コークスの消費量)は鉄鋼生産量に依存される。
- COGは製鉄所内の燃料として使用しているので水素を抽出すると代替燃料が必要となり、二酸化炭素の発生量が増加する。
水に電気を流すことによって水素を取り出す方法
小学校の理科の実験でご経験された方も多いと思いますが、水に電気を通電することで、水素を取り出す方法は技術的には古くから確立されています。中小規模の電気分解による水素製造装置は普及しています。
水素製造に伴い二酸化炭素の発生が直接的にはないので一見クリーンに思えますが、電力会社の系統電力を使用する場合には、発電時に二酸化炭素を発生させているので一概にクリーンとは言えません。
また、系統電力を使用する電気分解では水素の製造コストは上記の(1)(2)の製造方法と比較して約2~3倍程度の製造コストになり現状では商業的には厳しい状況です。
本製造方法のメリットを引き出すには、送電グリッドの容量を超えるため非常に安価で取引される再生可能エネルギー由来の電気(太陽光、風力など)を活用する、離島など電気を水素に変換して貯蔵するなどの工夫が必要です。
この製造プロセスの特徴を整理すると以下の通りです。
- 水素の製造コストは他手法と比較して高価である。
- 再生可能エネルギーを水素に置換・貯蔵し、必要な時に電気に再変換すればメリットは出易い。
- 再生可能エネルギーを活用する場合、天候により発電量(=水素発生量)が変動する。
バイオマスから発生するバイオガスから水素を取り出す方法
バイオマス(家畜の糞尿、食品残渣物など)の発酵により得られるバイオガス(メタノールやメタン)を触媒などにより改質する方法です。
バイオガス中には炭化水素成分(メタンやメタノールなど)だけでなく二酸化炭素や硫黄などの不純物が含まれます。それらを除去した上で炭化水素分を (1)に類似した ①水蒸気改質反応(Steam Reforming)と ②一酸化炭素シフト反応により水素中心の組成のガスを得ます。水素濃度を高めるためには(2)で説明した分離・精製(PSA方式)が必要となります。
牛一頭から1日で得られる糞尿からは燃料電池車を約20km走行させることが可能といわれています。
この製造プロセスの特徴を整理すると以下の通りです。
- 究極のエコである。
- 人口密度が低いがバイオマスエネルギーの密度が高い地域ではエネルギーの地産地消が可能となり、地域の経済的、エネルギーセキュリティにおいてメリットが得られる可能性がある。
- 水素の製造コストは他手法と比較して高価である。
おわりに
水素は先に述べた様々なエネルギー方法で製造することができるのですが、製造方法によって製造コスト、製造量、環境負荷、に違いがあります。 現状の工業プロセスで起用されている製造方法は商業ベースで成立していますが、燃料電池車用の水素(都市ガスの改質)は現状では採算ベースに乗っておらず、政策主導による国の補助金がなければ採算が合っていません。一方で、太陽光などの再生可能エネルギーやバイオガスによる水素製造コストが削減できれば自国のエネルギー自給率が高まりますので我が国としてはこの分野に力を入れることは非常に重要なのではないかと考えます。