水素社会の実現に向けて
2018年7月に、内閣で決定された第5次エネルギー基本計画では、「水素」がモビリティ、蓄電池などの分野でキーワードとなっている。来る2050年に向けた、温室効果ガス80%削減目標の達成のためには、まさに水素が重要な役割を担うでしょう。
この重要な水素を取り巻く環境を確認してみましょう。水素は、燃料電池自動車(FCV)の燃料として使われているほか、家庭用燃料電池(エネファーム)では、水素と空気中の酸素の化学反応により生じた電気と熱が家庭に供給されているなど身近なところで使われています。
更にこの水素を、一段上の概念である都市で利用することが現在検討され始めています。まさに、水素社会の実現への布石となるでしょう。
水素ステーションとは
ここではまず、水素社会のキーワードとなる、水素を生み出すための設備である水素ステーションに着目してみましょう。水素ステーションは、2019年12月現在、全国112ヶ所で運用されています。水素ステーションは、大きく分類すると、以下の3種類があります。
・その場で水素を製造するオンサイト型水素ステーション
・他から水素を持ってくるオフサイト型水素ステーション
・複数の場所で運用可能な移動式水素ステーション
また、スマート水素ステーション(SHS)と呼ばれる、水素製造、貯蔵、供給を一貫して行うことができるパッケージ型水素ステーションも現在普及が進んでいます。これは、あらかじめ工場で組み立てておいた、コンテナ大の水素ステーションをトラックなどで設置場所へ輸送し、電気と水道を接続すればすぐに水素を製造することができるという優れものです。また、このスマート水素ステーションに風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み合わせれば、水素製造から供給段階におけるCO2排出の大幅な削減が可能となります。大規模な設備・用地を必要とせず環境負荷低減にも寄与することのできるスマート水素ステーションは、大型水素ステーションの建設が困難な地方都市の自治体などに支持され、これまでに全国各地で導入が進んでいます。
スマートな水素を使ったまちづくり
まちづくりの視点として、水素を都市にまで広げた実証実験の例として、「北九州スマートコミュニティ創造事業」があります。
これは、2010年4月に“次世代エネルギー・社会システム実証事業”の4つの地域(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市)の一つとして、経済産業省より選定されました。
この事業は、スマートグリッドを核に、人々の「ライフスタイル」や「ビジネススタイル」等を変革することで、地域の住民や事業者等が地域のエネルギーを賢く使いこなす社会システムの構築を目指すことを目標としたものです。
32事業(2010年度から5年間で総額163億円)から成る大規模なマスタープランを策定し、その推進を図るという大掛かりなものでした。
この事業は、“地域節電所”を核とした地域エネルギーマネジメントシステム(CEMS:Cluster Energy Management System)により、市内の標準的な街区との比較でCO2排出量50%以上を削減することを目指して行われました。
この事業における水素は大変重要な役割を担っています。まず、工場の生産プロセスから発生する副生成物である水素を、民生街区にパイプラインで引き、家庭、自動車、小型移動体等でフル活用する水素タウンを建設しました。さらに、地域エネルギーマネージメントシステムとして、コージェネレーションや太陽光発電、風力発電、燃料電池などの分散型電源やコミュニティ設置型蓄電池システムとの情報の連携を実施し、その発電量や需要量に応じて、発電機や蓄電池の制御を行いました。同時に、時間帯別にエネルギー料金単価を変動させるダイナミックプライシングという手法で、需要家による省エネやピークシフトを誘導することが可能になりました。また、このダイナミックプライシングの情報をもとに、ビル内の設備や電気自動車(EV)充電設備、家庭内の家電品などの負荷制御の実施も可能です。
これにより、都市全体の適切な“節電”が実現し、環境負荷の低減が可能になることが実証されました。
このような水素によるまちづくりの最近の例としては、2020年3月7日、東日本大震災時の原発事故で被害を受けた福島県浪江町に、太陽光発電による電気を用いた“世界最大級”の水素発電所「福島水素エネルギー研究フィールド(通称:FH2R)」が建設されました。「FH2R」では、設置された約68,000枚の太陽光パネルによる発電でまかなわれる電力で「浪江町の水(上水道)」を電気分解し、「水素」を製造しています。
1日あたりの水素製造能力は、水素で動く燃料電池自動車約560台分、または、約150世帯の電力1か月分の電力に相当します。水素の貯蔵や供給も可能で、水素を運搬するトレーラーで町内をはじめ、東京など全国各地に「浪江産CO₂フリー水素」が運ばれます。この水素は、東京五輪・パラリンピックで活用することも目指しています。
まさに、水素が一つの都市から、都市と都市を結ぶ聖火リレーのような役割も担う時代がすぐそこまで来ています。
【参考URL】
水素ステーション整備状況
http://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/
「水素社会」の形と現在位置
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20181024.html
水素に関する取組例
http://future-city.jp/torikumi_project/&tag=%E6%B0%B4%E7%B4%A0
“世界最大級”の水素製造拠点が浪江町に誕生